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最终兵器少女

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第2页

书籍名:《最终兵器少女》    作者:高桥真
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 黙ったままのぼくが、怒っているとでも思ったのだろう。叱られた子供のようにゆっくりと上目遣いで顔を上げるちせと目が合った。
 ただこの時、ぼくにとって確かなことが一つだけあった。
 ちせは、可愛い。

「……あ、うん。つきあうべ。」

 今度はちせがとても丸い目でぼくを見上げ、フリーズした。

 ぼくはちせとつきあうことをOKした。しかし話をしたのはそれだけ。たったそれだけだった。ちせは返事の代わりに「ごめんなさい」といって、ぺこりとお辞儀をした。朝起きて目覚めたら、当たり前に夢かと思うくらい現実感が無かった。ただ一つだけ、つきあうことになった証拠に、ちせはくまのイラストが描かれた一冊のノートを差し出した。
 ぼくを苦しめることになるあの交換日記だった。それが五日前の出来事だ

*   *   *   *   *

 シュウジ君、今日はありがとう。ごめんなさい。 なんてゆうか……ごめんなさい、私男の人に告白するなんてはじめてだったから、とてもおろおろしてしまってごめんね。ごめんなさい。シュウジくん困ったよね。
 でも恥ずかしかったけれど、シュウジ君がOKしてくれて、とてもホッとしました。ごめんね、とても嬉しかったです。勇気をだして本当によかったと思っています。

 せっかくシュウジくんがつき合うって言ってくれたので、せっかく彼女になったので、ごめんなさい、私がんばろうと思います。がんばって恋人になろうと思います。
 それで、色々考えたのですが、あの……ごめんね、私は口べたで、まだシュウジくんとうまくおしゃべりとかする自信が無いのでですねえ……交換日誌をしようと決めました。勝手に決めてごめんなさい。
 でも文字なら、アセらずに少しは私が考えている事をシュウジくんに伝えられるかなあと思うからです。
 シュウジくんが好きな事や、いっしょに好きな事とか、そういうのを知り合えると思うんです。これから私の気持ちや、いろんなことをこの日記帳に書きとめていきます。
 ごめんなさい。私とシュウジ君の交換日記です。
 シュウジ君も、ごめんね、必ず返事を書いてください。それから、せっかく恋人同士なので……ごめんななさい……あの、シュウジ君のこと、シュウちゃんってよんでいいですか?
 いやなら、あきらめます。ごめんなさい。

 あ、長くなっちゃってごめんね。
 ではシュウちゃん、明日! 一緒に登校するのを楽しみにしています!
 がんばって早起きして、待ち合わせに遅れないようにします。私、足遅いので、ごめんね、でも、がんばってついて行こうと思っています。
 明日が本当に楽しみです!


ちせ   

 P.S.本当にシュウちゃんありがとう。これから私をよろしくお願いします。ごめんなさい。


*   *   *   *   *

 「ごめん」が15個もある日記を読んだのは初めてで、それを書いているちせの真剣な表情を思い浮かべ、素直に笑ってしまった。「ごめんななさい」が、ちょっと可愛い。と、同時にぼくは今後の「つきあう」がとても困難なものになる予感がして、やっぱりちょっとだけ途方に暮れた。  

地獄坂は名前のとおり、恐ろしいほど傾斜の急な、海側から続くひたすらにまっすぐな道で、学校はこの長い坂の終わりにある。ぼくは正門までおよそ七分台で、この道を上っていた。始業ベルの五分前に着く計算だ。
 たいていの連中はバスを利用した。バスは二分で坂を上る。朝っぱらから余計なエネルギーを使わないで済む。でもぼくは坂道を歩くことが嫌いじゃなかった。たしかに学校が目前に迫る頃には息は乱れ、額からは汗が滲み出てくるけど、坂の上から振り返って臨む朝の日本海の景色を、ぼくは最高に好きだったから、この坂道を歩いて上っている。
 晴れた日、陽光が波間を照らすそれは銀の砂を一面に散りばめたような輝きがあるし、嵐の日のそれは不気味な灰褐色に染まった波の怒涛がここまで聞こえてくるようで、何か神様みたいなもんの怒りにふれている気がして、厳粛な気持ちにもなる。
 そういえば最近はにしんの回帰が五十年ぶりに復活するという異変があって、港には漁船の数が増えている。大漁旗が風に舞って、朝の景色が一段と華やかになっていた。

 その地獄坂がこの数日で、正直苦痛になっていた。
 ちせの歩みはとてものろい。すぐにハァハァと息苦しそうになり、気がつくと十メートルも後を離れている。歩く姿はまるで鉛の靴を履いているかのように重い。一昨日が正門まで20分、昨日は18分かかっていた。2分短縮出来たとちせはハァハァ言いながら喜んでいたけど、……おんなじです。ぼくは少しだけうんざりとした気分で、遅れて坂を上ってくるちせを待った。
「ごめんなさい。ごめんね、シュウちゃん……」
 ちせはごめんなさいを心から連続で唱えて、でも鉛の靴は履いたままで、速度はやっぱり遅い。ぼくは意を決して、通告した。
「ちせ、なまらのろくないか? やっぱ、明日からバス通に戻せよ」
「ごめんなさい。でも、やっぱ私たち、一緒に登校しないと……。だって、私はシュウちゃんの彼女だから」
ちせはきっぱりと拒んだ。子犬とは思えない、頑固な態度だ。  

「バカ、オレはこないだまで陸上部だったから、こんな坂、急いで登りゃ遅刻しねーですむんだよ。でもおめーはのろのろしてるから……」
「ごめんなさい。……ごめんね」
 しまった。ぼくはつい苛立って、声を荒らげてしまった。
 ちがうんだ。
 ちせが泣きそうな顔で、ごめんなさいをまた連続した。泣きたいのは、ぼくだ。ちがうんだ、ちせ。ぼくが言いたいのはそういうことじゃなくて、女の体力のことはよくわからないし、本当に君が辛そうだったから無理をしてほしくなくて、朝に一緒に歩かなくたってぼくらは恋人同士だし、学校なんて何度遅刻したっていいんだ……。ごめんな、ちせ。ぼくはまだ、こういうことに慣れていないんだ。優しい言葉も知らないしかけられないし、イライラしたのは本当だけど、でもそんなに迷惑だとは思ってもいないし、くそっ、ぼくもどうしたらいいか、わからないんだ。
 地獄坂を上りはじめてもう8分が経過していた。ぼくらはまだ半分も歩いていない。楽しいはずの朝が、憂鬱になっていく。なんでぼくは、ぼくたちはこうなんだ。

 ちせを泣かしたことがばれ、ぼくは溜まり場の屋上で仲間たちに攻撃されていた。
 アホだ、馬鹿だと、冷酷だと一方的に罵るのはノリで、ちせを学校一の癒し系だと言い、密かに恋心を抱いていたと主張するヤツからすれば当然のことだった。女は単純な生物だから扱いは簡単なはずだとか、絶対に女のペースに巻き込まれたらダメだとか、経験上からのアドバイスをくれるのはタケだが、誰よりも彼女のペースに巻き込まれ、彼女の尻に敷かれているのはタケであって、ぼくらはこいつの言うことは話半分にさえ聞いていない。小学校からの親友のアツシはニヤニヤしながら自分と同じだけ女に不器用なはずのぼくの成り行きを見守っていて、ぼくの恋愛がうまくいったら自分も恋愛にチャレンジするつもりらしい。すでに好きな誰かがいるかどうかは知らない。

「つきあうって、どーしりゃいいんだ…?」
 ともかくも、女の子との交際に慣れていないぼくは誰に言うともなく助けを求めたが、恋愛の達人なぞは身近にいるはずも無く、いるのは好き勝手な会話で盛り上がっている欲求不満のエロアホ高校生のガキどもだ。無論、健全な話題になるはずもなく、早くキスをしちゃえばいいんだとか、そのままいっきにセックスまで持ち込んでしまえよとかそそのかされ、そうすると今度はちせが陵辱されているような嫌な気分になってくる。余計なお世話だって。タケが得意げに、女はそれを待っていると断言した。信用したらひどい目にあうに決まっている。みな、いつの間にかタケの恋愛講義をまっすぐな瞳でウンウンうなずきながら聞いていた。憎めないが、バカばっかりだ。