宠文网

最终兵器少女

宠文网 > 外国小说 > 最终兵器少女

第8页

书籍名:《最终兵器少女》    作者:高桥真
    《最终兵器少女》章节:第8页,宠文网网友提供全文无弹窗免费在线阅读。!

「いまどき、ポケベルかよ。……誰? アケミ?」
「あっ、ちっ、……違うの」
 ちせは迷彩柄のポケベルをぼくに突き出し、恥ずかしそうに笑った。
「これ、軍の支給品なの。ゆ……、有事の時、連絡取れないと困るんで……」
「ゆーじ?」
「せ……戦争……とか?」
 ちせの表情が困っていた。二人の時間が、忘れていたもう一つの現実に傾く。ぼくだけが知っている、ちせのもう一つの世界。ぼくも何て答えていいかわからず、困った。「あっ、でも大丈夫なの」
 ちせはつとめて笑顔を作り、ぼくを安心させようとした。
「なるべく放課後とか休みの時に出撃して……、テスト期間中は、なるべく出撃ないようにするって言ってたし」  
 返す言葉が出なかった。放課後、出撃、テスト期間中、…戦争、どうしてこれらの単語が一つの会話に、それもほのぼのと混在するんだ。全ての情報がちせのフィルターを通してくるってことが、そもそも怪しいし。
 そして当然のように、ちせは出かけようとしている。ぼくは引き止めることもできず、笑顔でちせを見送るしかない。  

「じゃ、シュウちゃん……、ちょっと行ってくるね」
 まるでアケミたちに呼ばれて行くような、そんな普通の顔でちせは言う。でも、『ちょっと』、何をしてくるのだろう。

「心配しないで」  
 アケミたちとは遊ぶけれども、女の子だけだから何にも心配しないで、まるでそんな感じの口調でちせは言う。でも、どうすれば『心配しない』でいることができるのだろう。

 急いで去っていくちせの背を見送りながら、ぼくは現実を振り返った。
 今日、『札幌空襲』から一週間がたった。
 死者と行方不明者の数は最終的には10万の数を越えるという。この国の戦闘機は8機墜落。国籍不明の爆撃機は14機墜落、護衛戦闘機は3機墜落、いずれも市内に墜ちた。爆撃機とかの墜落のまきぞえで、亡くなった人の数はどのくらいになるか、見当はつかない。

 そのすべてはちせが墜とした。

 ぼく以外、誰も知らない。あとはおそらく国の偉い人と、軍の一部の人と……。
 テレビで流れ続けた『札幌空襲』のニュース。でもテレビで見れば見るほど、当事者であるぼくらにとっては、逆に現実感が薄れていった。あれは事故に近いもので、原因追求には数か月がかかるけれど、必ずこの町を復旧させると道知事と札幌市長が共同で声明を発表した。嘘に決まっていた。どこかの国の連中はまぎれもなく、あの時に札幌にいた全ての人々の命を奪おうとしていた。瓦礫と化したあの札幌の町が決してもとに戻るはずはない。時計台も北海道大学も、新しくしたばかりの札幌駅も何もかもが壊滅したんだ。

 すべての事実をフィクションにしたテレビのニュース報道は、二日前にはついにはなくなった。この国がぼくらに何も知らせないまま、勝手に完全に歩き出していた。本当に戦争は始まっているのだろう。
 みんなも暗黙の了解で、空襲とか戦争の話題にふれるのはやめている。タケは交通事故で亡くなった、ぼくらはそんな風に思うことにした。現実はもうどうにもならない。戦争反対だとか、軍隊の海外派兵は絶対に阻止するべきだとか、そんなビラを配っている人の姿ももう見ない。ぼくらが不安になっても、騒いでも、反対しても、もう何も変わらないのだろう。きっと、何もかもが遅すぎるのだと思う。だからぼくらはもう何も考えない。ぼくらにどんな未来が待っているのかってことも、何もかも。  
 ちょっと出かけるはずのちせが、忘れ物を思い出して戻ってきた。
「忘れてた! はい、交換日記」
 ちせは交換日記帳を差し出した。元気で、明るいちせ。ちせはもう一度、屈託のない笑顔でぼくに手を振り、駆けていく。
「じゃ、行ってきます」  
 ぼくもちせに応えて、屈託のない笑顔を作って手を振った。そう……、ぼくに何ができる? 『彼氏』として『彼女』に対して、まぬけに笑って手を振る以外に。

 でも、本当は聞きたいんだ。
 君はそんな笑顔で、今日はどこに行くんだ、いったいどこに……。  

 でも、本当は言いたいんだ。
 行ったらダメだ、そんな場所に行ったら……。




                                                  4

 夜の道を、ぼくは必死で駆けている。
 ちせに会うために、ちせにぼくの気持ちを少しでも伝えるために。
 交換日記のあんな一言で終わりたくなかったから、だから、どうしてもちせに会いたくて、必死で。

『短い間だったけど 私と付き合ってくれて、ありがとう ごめんなさい』

 ちせが渡した交換日記の最後はそんな言葉で結ばれていた。
*   *   *   *   *

 こんにちは シュウちゃん。
 今日はいろいろお話を聞いてくれて、ありがとう。
 朝もチコクしそうになったのに、やさしくはげましてくれてうれしかったよ。
 いつものシュウちゃんならもっと怒るかと思ったけど。
 最近、シュウちゃん やさしいね。
 あ、あと 私のたいしてうまくないお弁当も 笑って食べてくれてありがとう?

 でも よく笑うシュウちゃんを見てると心配です。
 ムリして笑ってくれるシュウちゃんを見るたびに私は…………
 消えてなくなってしまいたくなります。
 なんで私 こんな体に なっちゃったんだろう。
 私、何か悪いことしたのかな?
 これは何かの罰なのかな?
 たとえば人に守ってもらってばかりいて、何一つ返せない弱い私へのとか。

 最終兵器のことは誰にもヒミツだから、
 誰にも相談できなくてつらかったです。
 だから、あの時、
 私のこんな恥ずかしい体 シュウちゃんにだけは見られたくなかったけど
 実は少しだけ ほっとしたの。
 シュウちゃんなら こんな悪いことをしてる私を、
 しかってくれるかもって思ったから。

 あの日から ウソをついて私にやさしくしてくれるシュウちゃんが
 すごくうれしくって、悲しかった。
 だから、もういいです。

 私、なんでこんなこと書いちゃってるんだろう。
 こんなこと書きたくないよ。やめたいよ。

 ……私、強くなるから。もっともっと 強く。
 だから、大丈夫。

 短い間だったけれど
 私と付き合ってくれて ありがとう。

 ごめんなさい


*   *   *   *   *

 ぼくはやっぱり嘘をついて優しくしていたのだろうか。いつも無理をして笑っていたのだろうか。たいしてうまくないお弁当を美味しいと笑って食べていたのだろうか。

 ひたすら走り続けながら、ぼくはちせが書いた日記の言葉の一つ一つを頭の中で何度も読み返していた。        
  
     ぼくはちせの、いい『彼氏』になっていると自負していた。ぼくらは『彼氏』と『彼女』として、絶対にうまくやっているとも。何よりもこんなにちせを悲しませていたなんて、思ってもいなかった。
 ちせはきっと無理をしているから、一人で悩んでいるに違いないから、だからぼくはもっと優しくして、もっと気をつかってあげようと誓った。いろいろ聞きたいこともあったけれど、それがちせを傷つけることになると思ったから、何も知りたくないフリをしようと思った。いつも笑顔でいた。全てを意識的に心がけようとして、でもそれが無意識のうちにちせを傷つけていたなんて……。